皆さんは、「歯や歯ぐきの健康が、全身の病気と深く関係している」と聞いたことがありますか？実は、お口の中の状態は私たちの体全体に大きな影響を及ぼします。近年の研究では、歯周病などの口腔疾患が糖尿病、心臓病、脳梗塞、誤嚥性肺炎など、さまざまな全身疾患のリスクを高めることが明らかになってきました。

歯科医院での定期的なメインテナンスやセルフケアの徹底は、単に虫歯や歯周病を防ぐだけでなく、全身の健康を守る上でも極めて重要です。本コラムでは、「口腔と全身疾患の関係」について3つの観点から詳しくご紹介します。

1. 歯周病と全身疾患の密接なつながり

歯周病は、歯を支える骨や歯ぐきが細菌によって破壊される慢性の炎症性疾患です。成人の約8割が何らかの歯周病にかかっていると言われており、非常に身近な病気ですが、この歯周病が全身疾患の発症や悪化に関与していることがわかっています。

特に深い関連があるのが糖尿病です。歯周病があると、炎症によるサイトカインが血糖値のコントロールを妨げ、糖尿病の悪化を招きます。また逆に、糖尿病によって免疫機能が低下すると歯周病が進行しやすくなるという「相互関係」があるのです。

さらに、心筋梗塞や脳梗塞との関係も指摘されています。歯周病菌が血流に乗って全身を巡ると、血管内に炎症を引き起こし、動脈硬化を進める要因となる可能性があります。このように、歯周病は「お口の病気」だけでなく、「全身の炎症性疾患」としてとらえる必要があるのです。

2. 高齢者の命を脅かす「誤嚥性肺炎」と口腔ケア

高齢者に多い肺炎の中でも、「誤嚥性肺炎」はとくに注意が必要です。これは、食べ物や唾液とともにお口の中の細菌が誤って気管や肺に入り込むことで引き起こされる肺炎です。嚥下機能が低下する高齢者に多く見られ、日本では誤嚥性肺炎が高齢者の死亡原因の上位を占めています。

誤嚥性肺炎の予防において、最も効果的なのが日々の口腔ケアです。歯や入れ歯に付着した細菌を減らすことで、誤嚥による肺炎のリスクも大きく下がることがわかっています。実際、施設や病院で定期的に専門的な口腔ケアを受けている高齢者は、肺炎による入院や死亡率が低下しているというデータもあります。

特に、唾液が減る「ドライマウス」や、嚥下機能が低下している方は、専門の歯科医院による評価とケアを受けることが推奨されます。歯科衛生士による定期的な口腔ケアは、QOL（生活の質）を維持するためにも不可欠です。

3. 健康寿命をのばすための「予防歯科」の重要性

人生100年時代を迎えた今、単に長生きするのではなく、「健康で長く自立して生きる」ことが重要視されています。そのために欠かせないのが、「予防歯科」です。歯を失わずにしっかり噛める状態を保つことは、栄養バランスのとれた食生活を可能にし、認知症やフレイル（虚弱）を予防することにもつながります。

特に、奥歯が抜けてそのままにしていると、噛む力が大きく落ち、食事の偏りや胃腸への負担が増える原因となります。さらに、「咀嚼する」という行為そのものが、脳への刺激となり、認知機能の維持にも関係しています。定期的な歯科検診により、小さなむし歯や歯周病の兆候を早期に発見し、対処していくことが、健康寿命をのばす第一歩です。

また、歯だけでなく「舌」や「口腔内粘膜」の状態も重要です。舌苔（ぜったい）や口内炎のチェック、噛む力や飲み込む力の評価も、近年では歯科医院で行われるようになってきています。口腔機能を総合的に評価・維持することが、全身の健康につながるのです。

まとめ：お口からはじまる全身の健康づくり

口腔と全身疾患との関係は、もはや医療現場では常識となりつつあります。歯科は「虫歯ができたら行くところ」ではなく、「健康を維持するために定期的に通う場所」へと変化しています。

毎日のセルフケアはもちろん大切ですが、それだけでは取りきれない汚れや、気づかないうちに進行する歯周病を防ぐには、専門的なケアと検診が欠かせません。

当院では、患者さま一人ひとりのお口の状態を丁寧に診断し、全身の健康を見据えた歯科医療をご提供しています。どうぞお気軽にご相談ください。皆さまの健康を、お口からサポートいたします。

監修：永井歯科医院　院長　永井