2025年9月16日

虫歯や外傷などで歯を大きく削った際、治療の仕上げとして「被せ物(クラウン)」を装着することがあります。見た目や噛み合わせを回復し、歯を保護する大切な役割を持つ被せ物ですが、実は、単に「見た目がきれいになればいい」というだけではない、大切なポイントがいくつかあります。
今回は、被せ物を選ぶ前に知っておいていただきたい“考えるべきこと”についてお話しします。治療を受ける前に少し知識を持っておくことで、より納得のいく選択ができるようになります。
1. 被せ物の目的を明確にする
被せ物には、「歯を保護する」「噛む機能を回復する」「見た目を整える」という3つの主な目的があります。
たとえば、奥歯の治療では「しっかり噛めること」が優先される一方で、前歯では「見た目の自然さ」も重要視されます。患者様の生活スタイルや希望に応じて、どの目的を重視するかを考えることが、材料選びや治療計画に大きく影響します。
2. 素材ごとの特徴と違いを理解する
被せ物には、いくつかの素材があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
金属(メタル)系のクラウン
強度に優れており、噛む力の強い奥歯に適しています。ただし、見た目が金属色で目立つ場合があります。また、金属アレルギーの心配がある方には不向きです。
メタルボンド(内側が金属、外側が陶材)
強度と審美性のバランスが良く、前歯にも奥歯にも使われますが、歯ぐきとの境目が黒ずんで見えることがあります。
セラミック(オールセラミック)
見た目が非常に自然で、変色もしにくく、金属アレルギーの心配もありません。ただし、割れやすさやコストが気になる方もいらっしゃいます。
ジルコニア
強度と見た目の両立が可能で、近年人気のある素材です。費用はやや高めですが、非常に耐久性があり、奥歯にも安心して使えます。
どの素材が最も適しているかは、口腔内の状態や患者様のご希望によって異なります。
3. 土台となる歯の状態を確認する
被せ物を長く快適に使うには、「土台」となる歯の状態がとても重要です。虫歯の進行具合、神経の処置が適切にされているか、歯の根の状態に問題がないかなど、事前の診査・診断が欠かせません。
必要であれば、土台となる歯を補強する「コア(支台築造)」を行うこともあります。無理に弱った歯に被せ物をしても、すぐにトラブルを起こしてしまう可能性があります。
4. 噛み合わせとのバランスを考える
被せ物は、単に1本の歯だけでなく、「全体の噛み合わせ」にも関係しています。噛むバランスが悪いと、他の歯に負担がかかったり、顎関節に影響が出ることもあります。
被せ物の高さや形を丁寧に調整することで、自然でスムーズな噛み合わせを保ち、トラブルの予防にもつながります。
5. 長期的なメンテナンスも視野に入れる
どんなに精密に作られた被せ物でも、長持ちさせるためには定期的なメンテナンスが欠かせません。特に被せ物と歯の境目はプラークがたまりやすく、二次虫歯になりやすい部分です。
日々のセルフケアはもちろん、歯科医院での定期検診やクリーニングによって、長期間にわたって快適に使い続けることが可能になります。
最後に
被せ物の治療は、単に「削ってかぶせる」だけではなく、お口全体の健康や、将来のことも見据えた“選択”がとても大切です。当院では、患者様一人ひとりのお口の状態やご希望を丁寧にうかがい、最適な治療方法をご提案いたします。
被せ物について不安なことや疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。あなたにとって最も納得のいく、そして長く安心できる治療を一緒に考えていきましょう。
監修:永井歯科医院 院長 永井 太一